indigoblue222の日記

20代仏教徒のあれやこれ

三谷さんの笑いが好き(『セクシー田中さん』作者の訃報に際し三谷幸喜氏のコメントを読んで)

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※『鎌倉殿の13人』についてネタバレがあります。

※リンクを貼っていますが、三谷幸喜氏についての話であって、『セクシー田中さん』原作者の訃報についての話はメインではありません。

 

 

 私、三谷幸喜さんの作品って大好きなんです。人間のダメな部分を笑いで包み込む、あの温かさがすごく好きです。

 そんな三谷さんが、リンクの記事のコメントで、「死にたいと思ったことって実はあるんですよね」と仰っているのが衝撃的でした。同時に、やっぱりか、という思いもありました。

 

 他人の苦しみを笑いものにすることと、笑いで包み込むことは、似ているようで違います。人気がある作品のなかにも、そういうところをはき違えているものがたまに見受けられます。

 笑われているそのキャラクターに対して、作者の中に少しなりとも愛情や優しさがあるかどうかが分かれ目なのでしょうか。より根本的には、作者に命を大切にする心があるかどうかが、違いを生むのではないかと思います。

 

 『鎌倉殿の13人』を、(私にしてはめずらしく)一回も欠かさず通して見たのですが、あのドラマの中では、誰かキャラクターが死ぬときには、その前にそのキャラクターの好感度を上げるようなシナリオが必ず入るというのがパターンだったんですよね。もちろん、そうやったほうがドラマが盛り上がるという狙いはあると思います。けれどそういう思惑のほかに、一つ一つの死をないがしろにしないで丁寧に描く、三谷さんの姿勢があるように私は感じていました。

 確信したのは、最終回で、タイトルにある「13人」の意味が明かされた時でした。

 評定衆のもとになった合議制の人数が13人ということになってはいますが、13人がそろったのはほんの一瞬。タイトルにするには印象が弱いなと釈然としないままドラマを見続けていたのですが……。あれは主人公が殺した人の数だったんですね(ということに、三谷さんはしたんですね)。鎌倉幕府を安定させるため、後には北条に力を集めるために犠牲になった人たちの数が、全部で13。名もなき兵たち、数々の戦に巻き込まれた庶民らも含めればもっと数は膨れ上がるのでしょうが。それでも、死者の数をタイトルに持ってきたところに、三谷さんの、一人一人の命を大切にしたいという思いが強く表れている気がして、深い感動を覚えました。

 個性の強い役者さんを集めてきて見事に調和させる、あの手腕にも驚かされるのですが、鎌倉幕府の成立期という殺伐とした時代をあそこまで面白いコメディに仕立て、なおかつ、人の死に真摯に向き合い続けたということに、私は脱帽します。三谷さん、ホントすげえよ。

 

 リンクの記事で「死にたいと思ったことって実はある」と仰っているのを拝見して、だからあんな作品がつくれるんだ、と納得しました。

 死ぬ手前まで行ったことがあるから、生きていく喜びも分かる。自分が苦しみ抜いたからこそ、他人の苦しみにも敏感になる。そりゃ、優しくなりますよ。誰かをいじめるような笑いは書けないんですよね、きっと。

 

 『セクシー田中さん』については、マンガも少し試し読みしただけで、ドラマも見ていないので、何を言うこともできません。ただ……自殺の話を聞くたびに思うのは、逃げちゃえば良かったのに、ということです。三谷さんは責任を感じて踏みとどまったと仰ってますが。私は「何を放り出してもいいから生きて」と言いたい派です。心臓だけ動かしてれば、なんとかなります。命ってそういうものです。生きがいなんて、諦めなきゃ何度でも手に入れられます。生きててほしかったなあ。もっと楽しいこと、たくさんあっただろうになあ。